【名称】ピッキオ
【ツアー名】クマと人との共存に向けた取り組みを学ぶスタディツアー
【おすすめ度】★★★★★5
【ポイント】「森と森に生きる動植物を未来に残していきたい」との想いで軽井沢で活動するピッキオ。情熱と愛を注ぎツキノワグマと人との“共存”を長野県軽井沢町で実現させた。動物に興味関心のある人や行政関係者に必ず参加してほしいスタディツアー。
【料金】公式サイトに記載
【アクセス】軽井沢駅よりタクシー。または中軽井沢駅より徒歩17分。
【公式サイト】https://picchio.co.jp/tour/3007
※2022年11月
11月末、紅葉と雪景色の狭間の季節に長野県軽井沢にやってきた僕と友人5名。
軽井沢を拠点に活動するピッキオが今年度より始めた「クマと人との共存に向けた取り組みを学ぶスタディツアー」に参加するためです。
今回の記事ではツアーレポートのような形でその時の様子をお届けします。
特に動物関連の仕事に就きたい人やクマが出る地域の行政関係者にはぜひ読んでいただき、そして実際に訪れてほしいです。
僕自身もとても感銘を受けた経験でした。
ピッキオとは
軽井沢の中心、星野エリアにビジターセンターをかまえるピッキオは、野生動植物の調査、研究、保全活動を行っている団体です。
また、ツキノワグマやニホンカモシカ、オオルリなど豊かな生態系が残る軽井沢の森を舞台としてスタディツアーや環境教育を提供しています。
そんなピッキオが2022年秋から始めたのが「クマと人との共存に向けた取り組みを学ぶスタディツアー」
森を伝えたい、未来に残していきたいとの想いで始められました。
ピッキオの活動とツキノワグマ
ビジターセンターにてガイドの田中 純平さんとお会いし、ツアーは座学からスタート。
田中さんは20年以上ツキノワグマとの共存に取り組んでいます。
ピッキオの活動理念と目標、ツキノワグマの生態について、
そして、1990年代後半、状況把握や問題個体の特定と対応(個体管理)から始まった保護活動の歴史などをお話してくれました。
スライドや映像だけでなく、子グマの剥製も登場します!
この子グマはコンクリートの排水路から抜け出せなくなり、亡くなってしまったそうです。
人の開拓により野生動物の命や生息地が失われる事実を痛感しました。
クマ対策ゴミ箱と無償の電気柵レンタル
座学が終わるといよいよ軽井沢の森へ。
基本的な移動手段はハイエースであり長い距離を歩くことはなかったので、体力に自信ない方も気軽に参加できます。
この日は雨が降っていたため説明は車内で聞き、降りてから活動の様子や使われる器具などを実際の目で見ました。
まず見たのは軽井沢町に設置されているゴミ箱。
田中さんが軽井沢に来られる前はクマによる被害が100件以上あり、住民とばったり会ってしまうなど深刻な状況だったとのことです。
北海道のヒグマ対策の経験を活かし、改良に改良を重ねようやく完成した緑のゴミ箱。
ある秘密が施されており、人は開けられるがクマには開けられない仕様になっています。
その結果、ゴミ箱被害はゼロになりました。
ゴミ箱の後は畑被害防止の電気柵を見学。
住民にも簡単に設置できるもので、なんと無償のレンタルも行っています!
ツキノワグマの捕獲と個体管理
続いて訪れたのはツキノワグマを捕まえるために使用する道具がある場所。
実際の手順とリアルなぬいぐるみで捕獲の様子を体験することができます。
決して殺すためを目的とした捕獲ではありません。
境界エリア(後述)を超えてしまったクマを森の奥へ返すためや個体管理のためだけに捕獲を行っています。
森の奥へ返す際は学習放獣という方法で人は怖いぞ!ということを教育をするそうです。
捕獲した際にクマの個体調査をするのですが、チェック項目の数に驚きました。
手だけでも図る長さが数項目あります。
このような測定をすることでクマのカルテを作り、軋轢レベル(危険レベル)を設定します。
このクマは悪さをしない、このクマは迷子になりやすい、このクマはちょっと危険などツキノワグマそれぞれをしっかりと把握することで、
クマ=危険動物という認識の緩和材料となり、むやみやたらに殺すことを防いでいます。
「ぜひ通報した方はこの作業を見届けてほしい」と田中さんはおっしゃっていました。
誰よりも住民がツキノワグマを知り、理解することが何よりも大切だからです。
ちなみに捕らえられた個体とピッキオが新しい出会いだった場合、名前を付けるチャンスもあるとのことです。
ゾーニング管理とベアドックの活躍
続いてきたのは小高い山の上。ツキノワグマの位置を特定する方法を学びます。
アンテナを使い、個体管理の際に取り付けた発信機からでる音が跳ね返る方角を数か所で測定し、
線を引くことで、クマのおおよその現在地を知ることができます。
クマの活動がピークになる6月~10月は毎晩この作業(パトロール)を行っているそうです。
軽井沢町は①クマがいても良いエリア(森林) ②クマが入ってきてほしくないエリア(別荘地、集落・農耕地、市街地)
の大きく2つに分けられており、②に入ってしまいそうな(入ってしまった)クマがいた場合追い返す行動をします。
そこで活躍するのがカレリアンベアドック!
フィンランドでは国宝と認められた種で、とても頭が良く飼い主思いがある一方、何かを守るために攻撃的な側面も持つ犬です。
その性格からアメリカやヨーロッパではヒグマ対策のために活躍しています。
2014年にピッキオがアメリカの団体から導入し、訓練、繁殖にも成功しました。
田中さんはベアドッグと共に暮らし、パートナーとして一緒に追い払いを行っています。
シミュレーションを見せて頂きましたが、日本初のベアドッグハンドラーでもある田中さんの指示をしっかりと聞き、歩く、吠える、ジャンプするといった真摯な姿勢が印象的でした。
アンテナで程度の位置を特定したらベアドックが匂いを元に探し、見つけ出したら大きな声で吠え威嚇しクマを森の奥へと追い払います。
軽井沢町を変えたピッキオの情報発信と普及啓発
最後に軽井沢町の変革について教えてくれました。
ピッキオが活動を始めた際は軽井沢町もクマ被害が多く、住民の多くは「クマは怖い生き物でありすぐ殺すべき」という考えがありました。
しかしピッキオの活動で町の意識が着々と変わりました。
「危険!クマ出没注意」という決めつけの看板をやめ、正しい知識を与えられる看板の設置。
時には毎晩行うパトロールや24時間365日即応できる出動体制、(田中さんはもう何年もお酒を飲んでいないそうです)
そして、町の未来を担う子どもたちへ教育。
田中さんを始めとした専門集団の愛と情熱、そして確かな経験と知見が町を動かし、
2021年には町の広報誌の表紙をツキノワグマが飾るまでになりました。
見つかったらすぐに殺してしまう行政もある中で、町の広報誌がこのような特集を組んだのは異例です。
それほどまでに住民が成果を認めてる、そして今後もピッキオに活動してほしいと願っているということです。
ゴリラが人里に降りてきてしまう、畑をゾウに荒らされる、バクやナマケモノのロードキルが後を絶たないなど、人と動物が共に生きる難しさは日本問わず世界中で起きている事柄です。
人の開拓によって生まれた問題を人によってどう解決できるか。
その糸口となるのが間違いなく今回のスタディツアーでした。
ツキノワグマと人との“共存”という言葉を具現化しています。
動物が好きな人、動物関連の仕事に就きたい、すでに就いている人。
野生動物保護や自然保護に興味がある人。
クマをただ大きくて怖いと思っている人、クマ見つけ次第すぐに殺処分する行政で働かれている人。
そして“熊の駆除をした役所にすぐにクレーム”をいれる人も。
ぜひ一度ピッキオのツアーに参加いただくことを、心より望んでいます。
※クマのスタディツアーに関して長い距離や急な道を歩くことはありませんが、歩きなれた靴がベターです。また防寒対策は必須です。
※バードウォッチングやムササビツアー、学校や企業向けのプログラム、インターンシップもあります。
おわりに
田中さんこの度は大変お世話になりました。誠にありがとうございました。
田中さんは最初「あまりしゃべり上手くないけどごめんなさい」とおっしゃってましたが、とんでもございません。
わかりやすく、想いのこもったガイドが印象的でした。
動物好きな故、多々質問してしまいましたがひとつひとつ丁寧に回答いただきありがとうございました。
またよろしくお願いいたします!