【名称】ロンドン動物園(London Zoo)
【おすすめ度】★★★★★5
【見れた動物】オカピ、ケープペンギン、インドライオン、スマトラトラ、アビシニアンコロブス、フタユビナマケモノ、無脊椎動物など。
【ポイント】研究や教育、レジャーを目的とした世界最古の科学動物園。空間作りにこだわった園内はまるでテーマパークのよう。事前に歴史と建築に関する予備知識を調べておくと、さらに楽しめる。
【料金】29,50€≒5,065円
【アクセス】ロンドン地下鉄ノーザン線Mornington Crescent駅より徒歩20分または動物園前までのバス多数あり。
【公式サイト】https://www.londonzoo.org/
※2024年5月
世界的な大都市イギリスのロンドン。
ビジネス、娯楽、金融、観光といったあらゆる分野の中心地であり、世界中の人々が集まります。
街歩きをするとビッグベンやウェストミンスター寺院など、誰もが一度は見たことある景色がいたるところにあり、まさにザ・海外旅行といえるでしょう。
ハリーポッターの舞台としても有名です。
この地にあるロンドン動物園が、近代動物園=Zooのはじまりです。
ロンドン動物園とは
シャーロックホームズの舞台であるベイカーストリートの北東に位置するロンドン動物園。
オーストリアのシェーンブルン動物園やフランスのパリ植物園付属動物園のように、王様のコレクションを市民に開放したメナジェリー起源ではなく、世界で初めて研究を目的に動物を収集し展示した動物園です。
1826 年、シンガポールの創設者であるトーマス・スタンフォード・ラッフルズ氏とアルカリ金属やアルカリ土類金属を発見した科学者サー・ハンフリー・デービー氏など、イギリス有識者らによってロンドン動物学会(Zoological Society of London|ZSL)が設立されました。
彼らの目的はパリ植物園付属動物園のように動物を収集し動物を研究すること、そして公に開放し市民を楽しませることでした。
同年に世界初の科学的動物園としてオープン。
以来、1843年にベルギーのアントワープ動物園、1844年にドイツのベルリン動物園といったような世界最古の動物園群が開園しました。
1847年には資金確保のためもあり市民に開放。
この際、ロンドン動物園が使用していた「動物学の庭園=Zoological garden」が市民によってZooと略され、動物園を指す英語が生まれたとされています。
これまで、進化論でお馴染みのチャールズ・ダーウィン氏やコンゴの森でオカピを発見したハリー・ジョンストン卿、東南アジアの生物の分布境界線を示したアルフレッド・ラッセル・ウォレス氏など、現代に名を残す錚々たるメンバーがZSLの会員としてロンドン動物園をささえてきました。
そして、ZSLおよびロンドン動物園は、クアッガやタスマニアタイガーといった絶滅種を保護し繁殖を目指したり、世界初となる園間の国際繁殖プログラムを実行したりと、時代ごとに世界最先端の技術を駆使し研究を重ね、保護や繁殖、野生復帰に貢献してきました。
市民への影響力も絶大なものであり、200年の間に数々のポップカルチャーも生み出してきました。
くまのプーさんモデルとなったアメリカクマのウィニー、巨大を示す言葉の語源となったアフリカゾウのジャンボなど、人々に愛された多くの動物たちがいました。
1960年代に飼育されていたジャイアントパンダのチチはWWFのロゴになりました。
近年では、ハリーポッターと賢者の石の撮影で、ハリーが大蛇と会話するシーンにロンドン動物園の爬虫類館が使用されました。
ディズニーランドのような園内
世界最古の動物園のひとつですし、ロンドンにあるということで、園内はクラシックで重厚感があるだろう思っていました。
しかし、実際には想像とは全く異なる世界が広がっていました。
科学動物園の名に恥じぬよう常時進化しているため、古めかしい感じは全くありません。
むしろ“ポップ”さがあり、歩いていてウキウキする動物園でした。
各エリアの入り口には個性豊かなゲートがあり、探検が始まるワクワク感を演出してくれます。
ビビッドな色合いの看板や、細部までこだわったデコレーションは、動物を見れなくても楽しめる要素があります。
人々の生活や文化に関連した展示は、世界を旅している気分にさせてくれます。
エリアごとに雰囲気が変わり、空間作りにこだわった園内は、まるでディズニーランドのようでした。
19世紀後半および20世紀初頭の面影を残す建物は一部のみとなっています。
約50種類の鳥が飼育されているブラックバーンパビリオン。
何度か改修されていますが、ビクトリアン様式の赤レンガはそのままです。
建物の正面には発明家ティム・ハンキン氏によるからくり時計があり、30分ごとに鳥のおもちゃが時を刻みます。
英国式モダン建築のパイオニアであるバーソルド・リュベトキン氏と20世紀を代表する構造家オヴ・アラップ氏
のタッグにより作られたペンギンプールは、その素晴らしい造形美を理由に園内に保存されています。
白く輝き、アーティスティックな2本のスロープが特徴的なペンギンプールは、建築とアートの側面から非常に高い評価を得ました。
また、鉄筋コンクリートが出回ったばかりの時代であったため、螺旋状に加工する技術は驚くべきものであり、建築士の教科書にも記載されるほどだったそうです。
ペンギンに対してかなりの負担がある飼育場だったことから、現在は使われておりません。
新たな飼育場は南アフリカの生息地を再現した世界最大級のペンギンであり、ペンギンのコロニーがゆうゆうと泳ぎまわる大迫力の光景を観察できます。
動物園の北と南をつなぐ東トンネルは1830年に作られた園内でも最も古い建築物のひとつです。
第二次世界大戦中には職員や地域住民のための防空壕としても使用されました。
現在ではここにロンドン動物園史が掲示されています。
一流の動物園建築
東トンネル含む動物園内のいくつかの建築物の設計者であるデシマス・バートン氏は、バッキンガム宮殿の改修や世界遺産王立キュー植物園のテンペレート・ハウスを手掛けた人物です。
ロンドン動物園は開園当時から飼育舎の設計やデザインを一流にゆだねる方針を貫いてきました。
そのため園内を歩くと、動物ごとに丁寧に考えられた作りである一方、遊び心や見た目の美しさもしっかりとある飼育舎の数々に驚かされます。
2回のCivic Trust Awards受賞歴のある建築家チームWharmby Kozdon Architectsによって設計されたタイガーテリトリー。
絶命危惧種スマトラトラが暮らしている施設は、大都市にあるスタイリッシュな公園のようでした。
サッカーコート一面ほどのメイン放飼場は半面が草地、半面が茂み、その奥に室内ととても豪華な作りです。
木登りや爪とぎのための立派な木もあり、エンリッチメント部分も充実していました。
メッシュテント状の屋根は高さもあり、垂直ジャンプも余裕でできます。
隣にあるサブ飼育場には広々としたプールもありました。
来園者は様々な角度からスマトラトラを観察することができます。
タイガーテリトリーもそうですが、ロンドン動物園の観察のためのガラスは床から天井までのものがほとんどであり、ものすごく見やすかったです。
一方でソウル動物園のように、いつでも人間の視線から隠れられる場所を作っており、動物のストレスへの配慮がなされていると感じました。
園内の中でも特に巨大な建築物がアビシニアンコロブスのいるモンキーバレー。
高さは最大24m、4つのピラミッドを組み合わせた大迫力のアスレチックです。
建築家兼都市計画家であったセドリック・プライス氏と構造エンジニアのフランク・ニュービー氏によるアイデアが、コンピューターによってモデリングしたり、持続的なものとなるようアルミニウムをほぼ全面に使用したりと当時最先端かつ最高峰の技術が駆使され形となりました。
総工費は日本円でなんと6億円以上。
ひとつの飼育舎にこれほどの資金を投じることができるのは、さすがヨーロッパ、さすがZSLです。
タイニージャイアンツ
Tiny Giantsは僕がもっともおすすめしたい施設。
クモやカタツムリ、昆虫といった無脊椎動物が展示されています。
見た目が独特であり、きもい、汚いと思う方が大多数かと思います。
そんなネガティブに捉えられがちな動物をポジティブに観察してもらうことを狙ったのか、ロンドン動物園の中でも特にポップな空間がお出迎えしてくれました。
タイガーテリトリー同様にWharmby Kozdon Architects によって建設されたTiny Giantsは、オランダのブライドープ動物園のキリン舎同様に自然素材を使用したサステナブルな建築物となっています。
博物館とラボが合体したようなな内部には海に放置された網をリサイクルして作られた絨毯が敷き詰められているため、その見た目に驚いて転んでも安全です。
ぜひ小さな巨人の世界をじっくりと探検しましょう。
一部は家畜よりも人間に近いところで暮らしている無脊椎動物。
そのため台所やお風呂を使った展示もありました。
こういったユニークな方法を通じて、「毒は治療や美容に使われている」「害虫駆除の役割がある」「身体の作りが発明のヒントとなった」など、実は人間の暮らしと進化に多大な貢献をしてくれていることを学べます。
動物園が果たすべき役割のひとつである教育が、正しく実践されています。
人間に害がない場合は殺すではなく逃がすという選択肢をとってもらえるといいなと思います。
かっこいい形をしていたり、宝石のように輝くものもいるので、ぜひお気に入りを見つけてほしいです。
これまで執筆した動物園の記事の中で、動物に関する言及が最も少なくなってしまいました。
それほどまでに、園作り、歴史、建築といった動物観察以外の要素が面白かった園です。
動物がいなくても楽しめたと思います。
訪問を考えている方は、歴史と建築に関する予備知識を調べておくことをおすすめします。
見方の選択肢が増え、面白さが倍増します。
ロンドン動物園の公式ウェブサイトには詳細が掲載されていますので、ご覧ください。
普段動物園に行かない人も、今までの動物園の印象がガラッと変わると思います。
テーマパーク要素もあり、誰もが満足できる魅力的な動物園です。
ロンドンに訪れたら必ず立ち寄ってください。