ドイツ/ハーゲンベック動物園~世界中の動物園が採用する展示方式が生まれた聖地~


【名称】ハーゲンベック動物園(Tierpark Hagenbeck)

【おすすめ度】★★★★★5

【見れた動物】セイウチ、ホッキョクグマ、エトピリカ、フラミンゴ、アジアゾウ、オランウータン、ホロホロチョウなど。

【ポイント】ハーゲンベック方式(無柵放養式展示、パノラマ展示)を世界に普及したカール・ハーゲンベック氏が設立した動物園。思いのこもった展示はどこも見応え抜群。

【料金】29€≒4,973円

【アクセス】メトロU2ラインHagenbeck Tierpark駅徒歩すぐ。

【公式サイト】https://hagenbeck.de/de/


オッターセンター訪問後は再び大都市へ。

欧州最大級の港のあるハンブルクに到着。

ちょうど開港818年を祝うお祭りが行われており、街中はとても賑わっていました。

人混みをかき分けて訪れたのは、動物園の聖地ともいえるハーゲンベック動物園です。

Hagenbeck Tierpark-gate
ドイツ・ハンブルクにあるハーゲンベック動物園

ハーゲンベック動物園とは

ハーゲンベック動物園は動物園マニアなら一度は訪れたい憧れの場所です。

ハーゲンベック方式(無柵放養式展示、パノラマ展示)が生まれた園だからです。

魚卸売業者兼動物商であった父親の影響を受け、幼い頃から動物に触れてきたカール・ハーゲンベック氏。

19世紀末、動物園展示の画期的なアイデアを思いつきます。

それは柵や檻で動物を飼うのではなく、堀や水壕を使用することで、可能な限りフリーダムな風景で動物を見せるというものでした。

この前代未聞のアイデアを形にし、1907年にオープンしたのがハーゲンベック動物園です。

Hagenbeck Tierpark-african panorama1
オープン当時から変わらないアフリカパノラマ

上の写真は、オープン当時から現在までハーゲンベック動物園の目玉展示であるDas Afrika-Panorama(アフリカパノラマ)

フラミンゴ→シマウマやダチョウ→ライオン→バーバリーシープが同じ空間で共存しているような風景が特徴的です。

実際には飼育場は段々に配置されており、堀や通路で仕切られています。

Hagenbeck Tierpark-africapanorama2
無柵放養式展示を組み合わせることでパノラマを演出

広がりのあるパノラマが楽しめ、まるで動物と動物、動物と人間が同じ場所にいるかような感覚に陥ります。

これこそまさにハーゲンベック氏の狙いです。

一見危険で、ある意味異質な雰囲気に来園者は大興奮。

発明王トーマス・A・エジソンは訪問した際「動物は檻の中にいるのではない。舞台の上に立っている。」という言葉を残しました。

迫力のある新しい展示方式は、カール・ハーゲンベック氏は外商や広告宣伝に尽力したこともあり、瞬く間に一世を風靡。

現在、世界中の動物園で広く導入されています。

Hagenbeck Tierpark-information
ドイツ語のためGoogle翻訳必須です

園内のVogelhaus(鳥小屋)にハーゲンベック動物園の歴史が掲示されています。

小さな小屋ですので見過ごさないように注意してください。

※ハーゲンベック氏は人間動物園という悪行を働いていた過去があります。園内の情報掲示には一切その旨には触れられておりませんが、動物園の歴史、人類の歴史を理解する上では知る必要があります。本記事をお読みいただいた方はぜひその無慈悲な歴史にも目を向けてください。

園内の様子

隣接する熱帯館とあわせて、約500種、14,000頭以上の動物が飼育されているハーゲンベック動物園。

もちろん、園内全体にハーゲンベック方式が採用されています。

Hagenbeck Tierpark-elephants
アジアゾウ屋内飼育場も水堀を利用したハーゲンベック方式

草木だけでなく芝生エリアも多く、動物園というよりも巨大な公園のような園内。

大きな湖や恐竜モニュメント、アジア建築などもあり、なんでもつめこんだ古き良きテーマパークのような雰囲気もあります。

Hagenbeck Tierpark-inside
平坦で歩きやすい

マーラやホロホロチョウ、孔雀は園内全域で放し飼いになっていました。

急に目の前に飛び出してくることもありますので、ご注意を。

また、嚙まれたりつつかれたりしないよう、お子様をしっかりと見守ってください。

なお、雨の日のハーゲンベック動物園訪問はおすすめできません。

園内の道がほとんど土であったため、ぐちゃぐちゃになってしまうためです。

北極の海

Das Afrika-Panoramaと共にオープン当時からの目玉展示であるDas Eismeer(北極の海)

老朽化のため一度解体されておりますが、初代とそっくりな二代目が2012年に完成しました。

巨大な氷塊、壮大なフィヨルドの風景を再現した施設であり、海に生息する動物が飼育されています。

Das Eismeer正面に立つと、ハーゲンベック氏のパノラマへのこだわりが目の当たりに。

Hagenbeck Tierpark-walrus
セイウチの背後にホッキョクグマ

同じ北極圏で暮らすセイウチとホッキョクグマが同時に視界に飛び込んできます。

それぞれのスペースも広く、また双方ともに大きな動物のため、大迫力の風景が広がっていました。

施設内に入ると、そこは冷たい海の中。

複雑に張り巡らされた750mの通路を歩き、探検家気分で動物を観察することができます。

Hagenbeck Tierpark-walrus3
ガラス窓が大きく見やすい

セイウチのプールは深さ約8m、セイウチが4頭すべてが見えなくなるほどの奥行があり、藻まで植えられています。

生息地の海底にもこだわった巨大なプールに驚かされました。

Hagenbeck Tierpark-walrus2
器用に剥いで食べていました。

エトピリカやオオハシウミガラスといった海鳥のバードハウスや本来の生息地の気温“氷点下”の部屋など〇〇、面白いエリアばかりで、なかなか足が前に進みません。

Hagenbeck Tierpark-Das Eismeer
見どころがたくさんあります

Das Eismeerの歴史や建築過程の情報掲示もあり、結果的には3周もしてしまいました。

開閉式のオランウータン舎

特に衝撃を受けたのがオランウータン&コツメカワウソの混合飼育舎。

ドーム屋根の中央に高い木や岩で作られたアスレチックがあり、オランウータンが暮らしています。

Hagenbeck Tierpark-orangutan1
オランウータンとコツメカワウソが仲良く暮らしています

建物内部に柱が一本もなく、ドームの高さも相まってとても開放感がある飼育舎です。

人とアスレチックを隔てる水堀は“川”の役割も果たしており、コツメカワウソが元気いっぱいい泳ぎまわっていました。

時々陸地でオランウータンとコツメカワウソが交わりますが、双方お構いなくの様子です。

ガラス越しに観察できるカフェやオランウータンの置かれている状況についての情報掲示、大人でも思わず座りたくなるベンチもあります。

Hagenbeck Tierpark-orangutan2
たくさんの人でにぎわっていました

とてもユニークであったため、また後で来ようと思い園内を一周した後、再び訪れるとなにやら違和感が。

なんとドームは開閉式でした!!

Hagenbeck Tierpark-orangutan3
ドーム半球が開閉式

文字通り、開いた口が塞がらないほどの衝撃を受けました。

ドーム半分部分がスライドし外とつながることで、オランウータンたちは日光浴をしたり、雨を楽しんだり、外の様子を楽しむことができます。

寒い時期にはドームに保護屋根を被せることもできるそうです。

あらゆる気象条件の中でもオランウータンとコツメカワウソに最適な環境を提供できる素敵な飼育舎です。

Hagenbeck Tierpark-orangutan4
半球がスライドする仕様です

ハーゲンベック氏が亡くなってから90年以上たった2004年に完成した施設ですが、ドーム手前の植物と飼育場の植物がひとつながりに見える風景は、ハーゲンベックの意思がしっかりと受け継がれた証だと感じました。

さいごに

ときわ動物園のシロテテナガザルや茶臼山動物園のオランウータンの森、平川動物公園のアフリカの草原など、日本の動物園にも取り入れられているハーゲンベック方式。

園or飼育舎によっては欧州にも劣らない素晴らしい施設があると、自身の旅を通して学んできました。

そのため「アニマルウェルフェアが進んでいない。」「欧州から遅れをとっている。」という意見はあまりにも抽象的であると感じており、僕自身言葉にはしていませんでした。

しかし、ハーゲンベック動物園のオランウータン舎を見て、そしてそれが2004年にできたということを知り「欧州から遅れをとっている。」ということを痛感しました。

20年前の施設が日本の動物園の現在の目指すところ=先進性を保っていることは、欧州のアニマルウェルフェアに対する意識と取り組みの深さを物語っています。

日本の動物園の努力は否定できるものではありません。

欧州の事例を取りいれ、時には独自の進化を遂げている日本の動物園には敬意を表します。

また“意識”自体は動物園関係者だけではなく、来園者側にも浸透してきていると思います。

問題は資金面になるかと。

経営形態や寄付文化などの違いを考慮すると、全てを全てオランウータン舎の水準に持っていくのは、到底無理だと感じております。

改めて“動物園の取捨選択”と“入園料値上げ”が必要なのではないかと。

日本の動物園が進化するだけではなく変化することを心から願っています。